観る将の感想:渡辺・藤井 棋聖戦第一局

2020/06/08

将棋

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マイ盤駒を自分で撮影(!)

先日藤井七段がタイトル挑戦を決めたと思ったら
もうタイトル戦が始まりました。
渡辺棋聖に藤井七段が挑戦するヒューリック杯棋聖戦
五番勝負・第一局です。

自称「観る将」の私が
勝手気ままに感想を書いてみたいと思います。

初戦から華のある見事な名局になりました。
2勝2敗で迎えた決着局と言われたら信じてしまいそうな。
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 盤外編

4日前に初タイトル挑戦を決めた藤井七段
さすがにタイトル戦用の和服を用意するには時間が足らずか
和服ではなく、スーツ姿で登場。
(規定的には全く問題無いそうです)

また会場は平時なら、全国各地の旅館等ですが
今回はコロナ禍で、将棋会館の特別対局室でした。

そういう意味で、タイトル戦らしい華やかさには欠けましたが
藤井七段にとっては、普段通りの環境で
実力が十二分に出せるプラスの面もあったのではないでしょうか。
昼食も普段どおりのカツカレー(980円)だったようです(!)

将棋の純文学・矢倉戦

振り駒(くじ引きみたいなもの)の結果、
藤井七段がやや有利とされる先手を引き当てました。
(五番勝負は今後先手を交互にやるので公平性が保たれます
最終局までもつれた場合は、再び振り駒)

先手が有利とされる一因は、
概ね自分の好きな作戦で挑めるからです。
さらに最近は将棋AIを使って、
想定局面での最善手を調べることが普通です。

一方後手は、先手の動きに対応して
受け止めるような形になりやすく、漫然と進めると、
先手が事前に調べている局面をその場で考える不利に陥りがちです。

藤井七段は、採用率の高い「角換わり」ではなく
予想に反して「矢倉」を採用しました。
普通の棋士であれば、相手の予想を外して、
自分の土俵に持ち込もうという意図が垣間見えますが
藤井七段はそういうことはあまり考えていない気がします笑

矢倉戦法は将棋の純文学と言われるぐらい
王道中の王道の作戦です。
全ての駒が働く重厚な戦いになる作戦で、
古くから大舞台で矢倉が戦われて来ました。

思えば、藤井七段のプロデビュー初戦。
将棋会のレジェンド・ひふみん(加藤一二三九段)との対局でも
藤井四段(当時)は先手で矢倉を採用していました。
(プロ入り前は矢倉を多く指していたという話もありますが)
AI世代の藤井七段は案外、
伝統を大切にする古風なところもあるのかなと
個人的には想像しています。

その辺も向こう数十年、将棋界のトップに君臨するであろう
スターの片鱗を感じさせるところではあります。

脇システム

矢倉と一口に言っても、細かい分類が色々とあります。
古来から重厚な矢倉戦も、ここ数年は定跡に進歩があり
素早い仕掛けから、乱戦模様になる傾向がありました。

しかし、そういう「急戦」へ最新の注意を払う手順が発見され
途中の道筋は変わったものの、再び重厚な戦いに回帰しました。
本局で藤井七段が採用した「脇システム」も、
互いにしっかり王様を矢倉に収めた
「がっつり矢倉」というべき作戦です。

ちなみに脇システムとは、脇八段がその昔、開発した戦法です。
将棋の世界では、新戦法に「システム」と名付けがちです。
藤井システムとかもあります。

しかしこの「脇システム」、一年前に別の将棋があって、
なんと渡辺棋聖が別の相手に、先手で採用して勝利しているのです。
(渡辺vs千葉・竜王戦)
さらに渡辺棋聖はキャリアも長いので
この手の将棋の知識や経験はかなりのもののはずです。

渡辺棋聖自身も、この戦法を有力だと考えているはずで
それを藤井七段が先手で繰り出して行ったわけです。

勝負の結果

進んでみると、藤井七段が有利になっていたようです。
「脇システム」やっぱり、かなり優秀そうです。

とは言え、将棋は序盤のちょっとした有利を守りきって
勝ちまで持って行ける人間はほとんどいません。
(なのでアマチュアレベルでは先手後手はほとんど関係ない笑)

しかし渡辺・藤井両者はほぼ人類最強の二人ですから
さすがの応酬で、ほとんどずっとノーミスの戦いが
最終盤まで続くことになりました。

最近は、人類より遙かに強い将棋AIが
有利不利を数字で評価してくれるので
悪い手を指すと一目瞭然となります。

アマチュアが指すと、数値が一手毎に乱高下して
物凄くギザギザしたグラフが出来上がるわけですが笑
今日の対局者が作ったグラフは
互角の範囲内でほぼずっと横ばい。
人類がこの精度で最善手を続けられるのは凄いと思います。

序盤のリードを守りきり、
後手を受けなしに追い込んだ藤井七段ですが
最後の渡辺棋聖の反撃も凄まじいものがありました。

次の一手で自分の王様は詰まされてしまうので
それまでは全て王手・王手で迫っていくしかありません
自分レベルがこれをやっても「思い出王手」
と言われるのが関の山ですが笑
渡辺棋聖の王手は、いかにも詰んでいそうです。
実際、藤井七段が一手でも逃げ方を間違えると
詰んでしまうという恐ろしい局面が30手程度続いたようです。

その鬼気迫る追い込みも、
最後はとても美しい投了図を残して終わり
(将棋のルールが分かる方は必見です!)
藤井七段が初戦を勝利で飾りました。

今後の展望

五番勝負は先に三勝した方の勝ちですから
これからどうなるか。

次は渡辺棋聖が先手になるので、若干有利です。
最近はテニスになぞらえて(?)
先手で勝つことをキープ
後手で勝つことをブレイク
と言う人もいるようです笑

なので、どちらが先にブレイクをするかが
番勝負の行方を大きく左右することになります。

第二局の注目は、渡辺棋聖がどんな作戦を持ってくるか。
脇システムをどう受け止めるんだ、と言わんばかりに
今度は渡辺棋聖が先手で脇システムをぶつけたら熱い展開だと思います笑
この五番勝負で矢倉戦法の定跡が一つ完成するかもしれません

渡辺棋聖の最近の作戦は、先手は矢倉か角換わりですが
角換わりは藤井七段の事前研究が半端ないので
矢倉は大いに可能性があると思います。

第二局で藤井七段がブレイクを果たしたとすると
もう早くも藤井七段の時代になって
棋聖奪取にとどまらず、数年で複数冠
10年以内に前人未到の八冠もあるのではと期待します。

あと、第二局の注目は、藤井七段の和服姿ですね。
次局は28日なので、間に合うかと思われます!

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東京大学 物性研究所 (柏キャンパス) で物性物理学の理論研究をしています。 ブログは最近撮り始めた写真の公開と日記を中心につらつら書くつもりです。 ごくたまに、研究活動に関わる有益な情報を発信出来たらいいなと思っています。

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